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静岡地方裁判所 昭和34年(ワ)422号 判決 1960年10月10日

原告 増田秋雄

被告 府中雛具人形株式会社

主文

被告は、原告に対し、金三、一二八、四七〇円およびこれに対する昭和三四年一一月二七日からその支払がすむまでの年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告が金一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一、原告の求める判決

主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

第二、請求の原因

一、原・被告は、いずれも雛具類の製造販売などを業とするものである。

二、被告は、原告に対し、昭和三四年五月一日いずれも、金額五〇、〇〇〇円、支払人静岡信用金庫新富町支店、振出地・支払地とも静岡市、という持参人払式の小切手二通を振り出し、原告は、現にその所持人である。

原告は、同年五月四日、右各小切手を支払場所に呈示して、支払を求めたが、これを拒絶されたので、右各小切手上に呈示の日を表示し、かつ日付を付した支払人の宣言の記載を受けた。

三、被告は、原告に対し、左に記載したとおりの約束手形を振り出し、原告は右各手形の所持人である。

原告は、各満期の日に、右各手形を支払場所に呈示して支払を求めたが、これを拒絶された。

表<省略>

四、被告は、昭和三四年四月一五日、訴外増田ゆきに対し、金額一五〇、〇〇〇円、満期同年六月一七日、振出地・支払地とも静岡市、支払場所第一銀行静岡支店という約束手形一通を振り出し、増田ゆきは、原告に対し、右手形を裏書譲渡し、原告は、現にその所持人である。

原告は、右支払期日に、右手形を支払場所に呈示して支払を求めたが、これを拒絶された。

五、原告は、被告に対し、昭和三四年一月二〇日から同年七月二七日までのあいだに、雛具類を代金合計一、三二八、四七〇円で売渡した。

六、よつて、原告は、被告に対し、

二、の小切手金合計一〇〇、〇〇〇円

三、四、の手形金合計一、七〇〇、〇〇〇円

五、の売掛代金一、三二八、四七〇円

総計 三、一二八、四七〇円

とこれに対する本件支払命令の正本が被告に送達された日の翌日である昭和三四年一一月二七日からその支払がすむまでの商法に定められた年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及ぶ。

七、被告主張の抗弁事実に対し

被告主張の事実中、原告が被告から前記各小切手および約束手形の振り出しを受け、また被告に原告主張の雛具類を売渡した当時、原告が被告会社の取締役であつたこと、原告主張の四の手形が、原告が被告に雛具類を売り渡した代金の支払のために振り出されたものであることは認める。

しかしながら、被告会社の全取締役は、会社の経営をすべて代表取締役である石川正に一任し、同人の行なう取引をすべて承認していたものである。そうして、原告は、被告会社とは、数年来異議なく取引を続けてきたものであるから、原告が、被告会社から前記各小切手および約束手形の振り出しを受け、また被告会社に前記のごとく雛具類を売り渡したことについては、ひつきよう取締役会の承認があつたことに帰する。

八、予備的請求原因

仮に、前項で主張した取締役会の承認がなかつたと認められるならば、右各小切手および約束手形は、原告が被告に売り渡した雛具類の代金の支払のために、被告が振り出したものであるところ、この取引および前記五、の取引は、取締役会の承認なくしてなされた無効なものとなり、結局被告は、右代金相当額の雛具類合計三、一二八、四七〇円を法律上の原因なくして利得したものであるから、不当利得として、その返還を請求する。

第三、被告の求める判決

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。

第四、答弁並びに抗弁

一、原告主張の一ないし五の事実は認める。

二、しかしながら、原告は、被告会社の取締役であるところ、被告の原告に対する原告主張の小切手および約束手形の振出、並びに原告主張の売買については、取締役会の承認がないから無効である。原告主張四の約束手形は、原告が被告に対し売り渡した雛具類の代金の支払のために振り出したものであるが、右売買についても取締役会の承認がなかつたから、その手形の振り出しも無効である。

三、予備的請求原因について

原告主張の各小切手および約束手形は、原告が被告に売り渡した雛具類の代金の支払のために、被告が振り出したものであることは認める。

第五、立証

被告は、甲第一八号証の一、二を提出し、証人川崎良吉、同川崎よね子の各証言と原告本人尋問の結果を援用した。

なお、原告は、被告代表者石川正の本人尋問を求めたが、同人は適式な呼出を受けながら、正当な理由なくして出頭しないので、原告提出の昭和三五年八月六日付証拠調の申請書に添付せられた尋問事項に関する原告の主張を真実と認める。

原告は、甲第一八号証の一、二の成立は知らないと述べた。

理由

一、原・被告とも雛具類の製造販売を業とするものであること、被告が原告に対し、原告主張二、三の小切手二通、約束手形一三通を振り出し、原告がその所持人であること、被告が訴外増田ゆきに対し、原告主張四の約束手形一通を振り出し、これを増田ゆきが原告に裏書譲渡し、原告がその所持人であること、原告がその主張の日に、右各小切手、約束手形を支払場所に呈示して支払を求めたがこれを拒絶され、各小切手については、原告主張のごとき支払拒絶の宣言をえたこと、原告が被告に対し、原告主張五のごとく、雛具類を売り渡したこと(原告主張一ないし五の事実)は、当事者間に争がない。

二、被告主張の抗弁について、

(一)  原告が被告会社から前記各小切手および約束手形の振り出しを受け、また被告会社に対し、前記のごとく雛具類を売り渡した(以下、右振出・売渡を含め、本件取引という)当時、原告が被告会社の取締役であつたこと、原告主張の四の約束手形が原告が被告に売り渡した代金の支払のために振り出されたものであることは、当事者間に争がない。

(二)  証人川崎よね子の証言と原告本人尋問の結果を総合し、これと、原告から本人尋問を求められた被告代表者の不出頭により真実と認めた原告主張の事実を勘案すると、つぎの事実が認められる。

被告会社は、石川正(現被告代表者)を代表取締役とする株式会社であるが、その実体は、同人の個人企業であつて、被告会社の取引先である原告、中野卓三、豊泉明らが、同会社の取締役に就任してからも、現在にいたるまで、取締役会は一回も開催されず、被告会社の経営の一切を右石川正に一任し、他の取締役は業務の執行に関与せず、名義だけの取締役にすぎなかつた。そうして、原告を含む石川正以外の取締役と被告会社との取引は、数年来、格別の異議なく、円滑に行なわれてきた。

かように認められるのであつて、この事実にもとづけば、被告会社においては、原告に対する本件取引を含め、被告会社とその取締役とのあいだの取引について、正式に取締役会を開いて承認を与えることこそしなかつたが、取締役全員は、石川正の行なう行為をすべて承認していたとみることができる。

(三)  ところで、取締役が会社と行なう取引について、取締役会の承認を得なければならないとするのは、要するに会社経営の中枢に参画する取締役が、誠実にその職務を尽すべきであるにもかかわらず、その地位を利用して、私利をはかるなど、不公正な取引をすることも防止する趣旨と解される。

そうすると、さきに認定したように、取締役の全員がその会社の経営を一切特定の取締役(甲)に一任している場合には、他の取締役は、会社の経営の中枢に参画せず、取締役甲の業務執行について概括的な承認を黙示のうちに与えているのであるから、甲以外の他の取締役が会社と取引をなすばあいには、その取引について、特に異議がない限り、取締役会の承認があつたと同様の効果を認めても、法の目的には反しないといつてよいであろう。

かように解するならば、原告と被告会社とのあいだの本件取引は、これについて、被告会社の取締役会の承認があつたと同様に、有効とするのが相当である。

三、してみれば、被告は原告に対し、

(1)  原告主張の二、の小切手金 合計一〇〇、〇〇〇円、

(2)  同 三、四、の約束手形金 合計一、七〇〇、〇〇〇円、

(3)  同 五、の売掛代金 一、三二八、四七〇円、

以上総計三、一二八、四七〇円とこれに対する本件支払命令の正本が被告に送達された日の翌日であること記録上明白な昭和三四年一一月二七日からその支払がすむまでの商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて、被告に対し、右義務の履行を求める原告の本訴請求は、正当であるからこれを認容し、訴訟費用は、敗訴の当事者である被告に負担させ、なお仮執行の宣言を付するのを相当と認め、主文のとおり判決する。

(裁判官 高島良一)

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